障壁画プロジェクトin 竹原 完成披露展

「障壁画プロジェクトin竹原」の参加アーティストに選ばれて、2024年1月から約40日間広島県竹原市で滞在制作を行った。
制作した屏風は竹原で出会った江戸時代の塩作りの歴史や当時を想わせる今の景色から着想を得ている。
たけはら町並み保存地区の中で屏風の展示場所でもある旧松阪家住宅の一室にある古い窓ガラスがとても印象に残り、この窓越しに届く瀬戸内の明るい光を昔の人たちも感じていたのだろうか、と思いを馳せながら作品を描いた。
また、作品の画面上ではあえて漆喰を塗らずに残した荒壁のような下地と描画を施した漆喰層のバランスをとることにより作品に強度をもたせた。
このフレスコ壁画特有の質感は、展示場所の旧松阪家住宅の和風空間に新たな調和を生み出した。
現在と過去、異なる文化がもたらした親和性は、瀬戸内の陽射しとフレスコの故郷である地中海をも鑑賞者の想像の中につないでみせることができたのではと感じている。

「祝福の小径」について

南の民謡が北へ、西の神様が東へ、北の物産が西では伝統にーー
江戸時代から明治にかけて、それらを結んだのは北前船でした。広島県竹原市にレジデンスをした際に出会った、北前船によって栄えた古い町並みでのリサーチを元に「現代における北前船」をフレスコ壁画の屏風絵として展開した。
わたしが絵画制作に用いるフレスコ画は、漆喰の石灰分と水溶きの顔料の水分が短時間に結晶して画面を形成する技法である。生乾きの漆喰に描くため、絵の全体図を1日に描ける仕事量に分割し、その分だけ漆喰を塗り継ぎながら描画するという、経験と計画性を要する制作方法である。他の絵画技法のように加筆や修正ができないため、日々の制作スケジュールをリサーチ・下絵づくり・漆喰づくり・描画制作と細かに割付けている。

描くモチーフは今回「障壁画プロジェクト」で滞在した広島県竹原市で出会った北前船の歴史から着想を得ている。北前船は日本の各地に富と繁栄をあたえた。その恩恵は経済効果だけではなく、運んだ物資や文化、集まった情報が寄港した土地で人々に受け入れられ、時には形を変え、新しい文化や産業を生み出した。それらの出来事を引用し、過去と現在をつなげるような絵画空間を作りあげた。
また、作品の画面上においてはあえて漆喰を塗らずに残した荒壁のような下地と描画を施した漆喰層のバランスをとることにより作品に強度をもたせた。その伝統的技法によるフレスコ壁画特有の質感は、展示場所である江戸時代末期から明治に建てられた旧松阪家住宅の和風空間に新たな調和を生み出した。現在と過去、異なる文化がもたらした親和性は、瀬戸内の陽射しとフレスコの故郷である地中海をも鑑賞者の想像の中につないでみせることができたのではと感じている。